このページの要点
- 保守の対象はURLだけで特定せず、サービス名・性質・管理権限の有無を示し、管理できる範囲だけが対象と書く。
- 範囲内の作業は回数と時間で書く(例:不具合修正は月1件・月合計1時間まで、同じ原因の修正は1件、未使用分は繰り越さない)。
- 軽微なものを含む調整、大規模な更新、顧客や第三者の変更に起因する復旧、利用料、時間外の対応などを範囲外に列挙する。
- パッチは公開されたら直ちに適用する義務ではなく、受託者が重大性・互換性・影響範囲から判断すると書く。
結論:「保守」は法律用語ではない。範囲内を回数と時間で、範囲外を列挙で書く
保守契約で一番大切なのは、月額の中に何が入っていて、何が入っていないかです。個人のWebデザイナーが作った保守・運用契約の原案をレビューしたとき、事務所は「保守・運用の無限責任化」という言葉で問題を説明しました。業務を細かく列挙すると、委託者は「書いてあることはすべて義務」と読み、さらに「書いていないことも保守なら当然」と考えます。特に、セキュリティの監視、障害の調査、復旧作業は委託者の期待が強いのに、対応の水準(即時か、翌営業日か、努力義務か)が書かれていないと、期待が契約の内容として主張されます。
もう一つの落とし穴は、対象の特定です。原案は保守の対象を「本サイト等」とし、外部のECサイトをURLだけで特定していました。「等」は範囲を際限なく広げる言葉ですし、URLだけの特定では、URLが変わったとき、同じドメインの中に複数の機能があるとき、プラットフォームの仕様が変わったときに、範囲が動いてしまいます。レビューでは、対象を列挙するか除外の規定を置くこと、外部のサービスについてはサービス名、プラットフォームの性質、受託者に管理権限があるかどうかを明示し、「管理できる範囲だけが対象」と書くことを勧めました。
このページでは、保守ベンダーの保守契約、Webサイト保守の契約、定額のITサポート契約から、範囲の書き方を具体的に紹介します。対応時間や障害時の目安はSLA・対応時間、月額と超過料金の関係は月額固定と作業時間の上限のページで扱います。
事務所の改訂例 保守の対象の特定(Webサイト保守)
対象の書き方
「等」で範囲が広がることと、URLの変更で対象が分からなくなることを防ぐため。外部ECについては、受託者に管理権限がある範囲かどうかも条文で示しておくと、プラットフォーム側の障害や仕様変更への対応義務の範囲がはっきりします。
ヒヤリングで確かめること 保守の対象と仕組み(HP制作・保守ひな形のヒヤリングから)
- サイトのデータはどこに保管するか(制作者のリポジトリか、顧客の環境か)。保守期間中の保管場所と、終了時の引渡しの方法(リポジトリごとの移管か、ファイル一式の交付か)が決まります。
- 記事の編集画面は自作か第三者のサービスか、どこで動いているか。「保守終了後30日で停止する」と書くとき、何を止めるのかを条文に正確に書くためです。
- 問い合わせフォームの送信内容は、どこを経由し、どこに保存されるか。個人情報の扱いと、保守終了後にフォームを切り替える方法を決める前提になります。
- 稼働監視はどの方法で行うか。「稼働監視(毎日)」と書く以上、監視の方法と、異常を見つけたときにどこまで対応するかを確かめておきます。
- 他の顧客にも使い回したい共通部品は何か。顧客ごとの制作物と、制作者の汎用資産の線引きに使います。保守中に作った部品の権利の帰属にもつながります。
範囲内の作業を、回数と時間の数字で書く
保守ベンダーが自社の保守契約書の原案を持ち込んだ案件では、月額の範囲内で行う「ライト保守」を8項目に分け、回数や時間の上限を数字で書いていました。
月額の範囲内(保守ベンダーの保守契約の例)
| 作業 | 扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 電子メールでの問い合わせ対応 | 月額内 | メール・チャットツール。一次回答の目安は受付後2営業日以内 |
| サーバー・ドメイン周辺の簡易確認 | 月額内 | 顧客が契約・支払。受託者は貸与されたログイン情報の範囲で確認 |
| 簡易稼働確認 | 月額内 | 月1回・画面表示レベル |
| 不具合発生時の一次切り分け | 月額内 | 原因の切り分けまで。恒久対策は含まない |
| 不具合修正 | 月額内 | 月1件かつ月合計1時間まで。同じ原因による一連の修正は1件 |
| バックアップの取得状況の確認 | 月額内 | 取得の成功・復元の成功は保証しない |
| 緊急時の復旧対応 | 月額内 | 保守開始日を起算日として12か月ごとに1回まで |
| 重大な脆弱性の情報収集・対応方針の検討・合理的な範囲のパッチ適用 | 月額内 | 適用の時期と方法は受託者が判断 |
| 軽微なものを含む画面・文言の調整 | 別料金 | 対象外・別途見積り |
| 月次報告 | 対象外 | なし |
未使用の回数・時間は翌月へ繰り越さず、金銭への換算や返金もしない、と同じ条の2項で定めています。
この書き方のポイントは、「不具合修正」と「調整・改修」を分けたことです。不具合修正は、本来の仕様どおりに動かない部分を直す作業で、月1件・1時間までは月額に含みます。一方、画面の文言を変えたい、ボタンの位置を少し動かしたい、という調整は、たとえ軽微でも対象外にしています。「軽微な修正は月額に含む」と書くと、何が軽微かで毎月の議論が始まるからです。保守の対象も、従前の開発で開発対象になった部分に限り、ホームページ本体の更新、デザインの修正、コンテンツの追加は含まないと明記しました。
同じ原因による一連の修正を1件と数える定めも、件数の上限を置くなら必要です。一つの不具合を直すために複数のファイルを修正したとき、それを何件と数えるかが決まっていないと、「3件直したので今月の枠は超えた」「いや1件だ」という議論になります。
範囲外を、号で列挙する
同じ保守契約では、範囲外の作業を8つの号で列挙していました。新しい機能の追加・仕様の変更・軽微なものを含む画面や文言の調整・デザイン制作・性能の改善、CMSやPHP・データベース・OS・サーバー・クラウド環境の大規模な更新・移行・再構築、テーマやプラグインの代替品の調査・選定・購入・置換、コンテンツの作成・登録・更新・削除、顧客や第三者による変更・誤操作・想定外の利用・過大な負荷・提供情報の誤りに起因する調査と復旧、マルウェア感染・不正アクセス・データ消失などの事故の大規模な調査・証拠保全・外部機関への対応、サーバー・ドメイン・SSL・有料のテーマやプラグイン・外部APIの利用料や更新料、現地作業・出張・休日や時間外の対応・詳細な調査、です。
事務所の改訂例 範囲外の条の形式
号と項の混在
「前項」がどこを指すか定まらないと、立替実費の支払義務そのものが争われるおそれがあるため。条文の組替えの途中で古い番号が残ったと見られる箇所です。
範囲外の列挙で特に効くのは、「顧客や第三者の変更に起因する調査・復旧」の号です。顧客が自分で設定を変えた、別の業者がプラグインを入れた、といった原因で動かなくなったとき、その調査と復旧まで月額で求められると、受託者は自分の責任ではない障害のために枠を使い切ります。受託開発の後のサポートを定めた別の契約でも、顧客が表計算シートの構成(列の追加・削除・順序の変更)を変えたことに起因する修正・再構築は対象外・別途見積りとし、顧客によるファイルの権限設定の不備による不具合は免責としていました。同じ契約では、入力項目の拡張は1回に限り無償、2回目以降は1項目ごとに追加費用、という数え方もしています。
第三者のソフトウェアとパッチ適用は「判断する」と書く
CMSの本体、テーマ、プラグイン、OS、PHP、データベース、サーバー、外部APIは、保守ベンダーが作ったものではありません。保守ベンダーの保守契約では、これらの第三者ソフトウェアは各提供者の条件に従い、受託者は品質・安全性・互換性・継続性・更新の時期を保証しないこと、仕様の変更やサポートの終了で範囲を超える作業が必要になれば別途有償であることを定めました。
1乙は、脆弱性の重大性、互換性、影響範囲、復旧の可能性及び作業量を考慮して、パッチ等の適用の時期及び方法を合理的に判断する。乙は、更新が公開されたことのみをもって、直ちにこれを適用する義務を負わない。
2乙は、適用により重大な不具合が生じるおそれがあるとき、又は相当の作業を要するときは、適用を見送り、代替策又は有償の対応を甲に提案することができる。
3本契約において「重大な脆弱性」とは、提供者その他の信頼できる機関が緊急又は重大と評価したもの、又は悪用された場合に重大な影響があると乙が合理的に判断したものをいう。
「更新が出たら直ちに適用する」義務を負うと、更新のたびに表示崩れのリスクを受託者が負担することになります。
Webサイト保守の書き直し版でも、レビューで「アップデートで不具合が出た場合とセキュリティ事故のときの責任と対応範囲が書かれていない」と指摘したうえで、アップデートはリスクを伴い結果を保証しないことを明文化しました。パッチの適用を義務ではなく判断として書くことで、適用を見送った理由を説明すれば足りる構造になります。
Webサイトの保守では、定義と数字の置き方が変わる
Webサイトの保守は、システムの保守と比べて、記事の更新やアクセス解析など「運用」に近い作業が混ざります。書き直し版では、用語の定義を置いて保守と運用を分けました。「保守」はアップデート、自動バックアップの監視と手動バックアップの補助、セキュリティチェックと基本的な障害監視、表示確認で、新しい機能の開発・大規模な改修・デザイン制作は含みません。「運用」はテキスト・画像・商品情報の更新、アクセス解析の簡易報告、管理画面の操作支援です。「復旧」は、取得済みの最新のバックアップで正常な時点への「復元を試みる」作業であり、完全性と可用性を保証しない努力義務と定義しました。
| 契約 | 月額の範囲 | 範囲外・上限 |
|---|---|---|
| 個人のWebデザイナーの保守・運用契約(書き直し版) | CMS・テーマ・プラグインの適時のアップデートと動作確認、セキュリティログ・不正ログインの簡易チェック(月1回程度)、障害時の初動分析と暫定措置の検討、月10時間以内の軽微なコンテンツ更新、月次報告(翌月5日まで) | 恒久対策、新規ページ・構造変更・デザイン、外部ECの仕様変更に伴う技術対応・障害調査・設定変更、月10時間を超える作業 |
| テンプレート型のHP制作と継続保守 | CMS本体・プラグインのアップデート(月1回以上)、月1回のバックアップ、不正アクセス検知・ログ監視・パッチ適用、サーバー・ドメイン・SSLの管理、障害発生時の一次対応(原則平日日中)、軽微修正は月5回まで | 新規ページ、デザインの大幅変更、CMSの構造変更・データベースの改修・外部API連携などの高度な開発、全面リニューアル。月5回を超える修正は事前協議で別料金 |
| 個人のHP制作者の制作・保守ひな形 | ライト:記事編集画面、フォーム、稼働監視(毎日)、ドメイン期限の確認(年1回)、操作方法の質問へのメール回答/おまかせ:ライト+月1回までの修正代行(1回30分程度が目安、翌月繰越しなし) | 保守を契約していない顧客からの質問・作業依頼には応じる義務を負わない(応じるなら範囲外作業) |
3つ目のひな形の「保守を契約していない顧客には応じる義務を負わない」という一文は、制作だけを受けた顧客から、保守の契約がないのに操作方法の質問や小さな修正の依頼が続く、という個人の制作者に多い悩みに対応したものです。応じる場合は範囲外作業として料金が発生することを、契約書の段階で伝えておきます。
外部のECプラットフォームやクラウドサービスの上で動くサイトでは、プラットフォーム側の障害や仕様変更にどこまで付き合うかも範囲の問題です。Webサイト保守の原案のレビューでは、外部ECの管理権限の一部が受託者に移っている場合、プラットフォーム側の障害・仕様変更のときの調査義務と対応義務の範囲を明文化するよう指摘しました。HP制作・保守のひな形では、外部サービスの障害・仕様変更・終了で表示が止まったりデータが消えたりしたときは、保守期間中に限り、通知のうえ復旧や代替手段の提案に合理的な範囲で努めるとしつつ、外部サービスの大規模な仕様変更に伴う改修は保守に含まず範囲外の作業とする、と定めています。
役割分担で範囲を切る:制作会社や管理会社がいる場合
保守を受ける事業者のほかに、サイトを作った制作会社やサーバーを管理する会社がいる場合は、誰が何を担当するかを契約で分けます。個人事業者が法人からホームページの管理とSNSの更新管理を受けた契約では、当初の一括の契約で、受託者のホームページ管理に「依頼を受けた場合のサーバー管理・ドメイン管理・プラグイン更新への対応」を含めていました。その後の改定版では、受託者の業務を「お知らせや求人応募情報の更新などの軽微な更新」と「制作・管理事業者との連絡調整」に限定し、新規制作、リニューアル、システムの保守、サーバー・ドメインの管理は委託者が別に契約する制作会社又は管理会社が行い、受託者は責任を負わない、と明記しています。
同じ契約では、受託者は制作会社との契約の当事者にならないこと、制作会社の制作内容・システム・サーバー設定・セキュリティ設定について保証責任や契約不適合責任を負わないこと、保守の対象外としてサーバーの移転、ドメインの移管、データベースの修復、サイバー攻撃からの復旧対応を列挙することも定めていました。受託者が窓口として制作会社とやり取りしていると、委託者からは受託者がすべてを管理しているように見えます。窓口であることと責任を負うことを、条文で分けておく必要があります。
防犯システムの売買に月額保守が付いた契約のように、保守の内容を本文に書かず、別紙の見積書に委ねる構造の契約もありました。見積書は金額の根拠としては便利ですが、作業の範囲や範囲外の扱いまでは書かれていないことが多いので、範囲の条を本文に置いたうえで、見積書は金額だけを定める書面として位置付けるほうが安全です。
「ついでにお願い」を範囲に入れないための手続
範囲を決めても、運用の中でチャットや電話の「ついでにこれもお願い」が積み重なると、範囲は事実上広がっていきます。テンプレート型のHP制作と継続保守の契約では、業務の内容の変更・追加は書面又は電磁的記録による明確な合意が前提で、口頭の指示やチャットなどの簡易なメッセージは「補助的な情報」にとどまり、受託者の業務の義務を直ちに変更しない、と定めていました。HP制作・保守のひな形では、範囲外の作業は事前にメール等で内容・料金・時期の見積りを示して承諾を得てから着手し、「承諾なく料金が発生することはない」と書いています。受託者は範囲外の作業を受ける義務を負わない、という一文も置きました。
範囲外の作業を受けるときの流れ(事務所の書類の考え方)
- 依頼を受けるチャットや電話の依頼は「補助的な情報」として受け、その場で着手しない。
- 範囲内か範囲外かを判断して伝える月額の範囲の項目、回数・時間の上限、範囲外の号に照らして判断する。
- 見積りを示す内容・料金(時間単価×見込み時間など)・時期を、メール等の記録が残る方法で示す。
- 承諾を得てから着手する承諾がない限り料金は発生せず、受託者にも作業の義務はない。
- 完了した月の月額と一緒に請求する保守ベンダーの保守契約では、追加作業は完了した月の月額と合わせて請求すると定めた。
起きがちなこと:範囲が少しずつ膨らむ
範囲の条は、保守の現場で毎月参照される条です。数字と列挙で書いておけば、作業報告や見積りのたびに条文を示して説明できます。範囲外の作業の料金の決め方は月額固定と作業時間の上限、範囲外の作業を「重対応」と「別契約」に分ける考え方は定額ITサポートの三層構造のページをご覧ください。
よくあるご質問
「軽微な修正」は月額に含めるべきですか?
含めるなら回数や時間で上限を書きます(例:月5回まで、月1回30分程度まで)。事務所が見直した保守契約では、仕様どおりに動かない部分を直す「不具合修正」は月1件・1時間まで月額に含め、軽微なものを含む画面・文言の「調整」は対象外・別途見積りとして分けました。
未使用の対応時間は翌月に繰り越せますか?
契約で決めない限り争いになります。月額は体制を維持する対価であるとして、未使用の回数・時間は繰り越さず、金銭への換算や返金もしないと定める例が多くあります。
顧客が自分で設定を変えて動かなくなった場合も、保守の範囲ですか?
範囲外に列挙しておけば、別途見積りの作業として受けられます。顧客や第三者による変更・誤操作・想定外の利用・提供情報の誤りに起因する調査と復旧を範囲外の号に入れておくのが一般的です。
パッチやアップデートは、公開されたらすぐに適用しなければなりませんか?
契約で「更新が公開されたことのみをもって直ちに適用する義務は負わない」とし、重大性・互換性・影響範囲・作業量を考えて受託者が時期と方法を判断すると定めておく方法があります。
制作会社が別にいる場合、保守担当はサーバーやセキュリティまで責任を負いますか?
契約しだいです。新規制作・システムの保守・サーバーやドメインの管理は委託者が別に契約する制作会社や管理会社が行い、保守担当は軽微な更新と連絡調整に限る、と明記して責任を切り分けた例があります。
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