このページの要点
- 更新しない・途中で解約する・違反で解除する、のそれぞれについて、誰が、いつまでに、何で伝えるかを書く。
- 委託者だけが理由を問わず解約できる条項には、予告期間と稼働分の報酬を求める。6か月以上の継続ではフリーランス法の30日前予告がかかり得る。
- 終了時は、返還・削除は義務、移管・引継資料の作成・他業者への説明・データ移行は有償と線を引く。
- 引渡し→説明→削除→報告の順序と、削除の期限・証明を決める。一人で受ける保守は連絡不能時の扱いも書く。
結論:期間と更新は「どちらが、いつまでに、何で」やめられるかを書き、終了時は「返還・削除は義務、移管・説明は有償」で線を引く
保守・運用・SESの契約は、続いている間よりも、終わるときにもめます。終わり方には、期間満了で更新しない、期間の途中で解約する、相手の違反で解除する、という3つの道があり、それぞれについて誰が、いつまでに、どの方法で意思を伝えればよいかを書いておく必要があります。そして終わった後には、データ、アカウント、ソースコード、ドキュメントをどう返すか、次の業者にどう引き継ぐか、という問題が残ります。
事務所の書類では、終了時の作業を「返還・削除は義務、移管・引継資料の新規作成・他の事業者への説明・データ移行は有償」と切り分ける考え方が繰り返し出てきます。受託者が無償でどこまで協力するかを決めておかないと、ベンダーの変更(リプレース)のたびに、旧ベンダーが新ベンダーへの説明に何十時間も無償で付き合わされることになります。委託側の契約では、反対に、無償の引継ぎ説明を時間で区切って確保する書き方もとっています。
このページでは、期間と更新の設計、委託者だけが解約できる条項、自動更新しない設計、終了時の返還と移管、期限つきの削除証明とリポジトリの移管、一人で保守を受ける事業者の連絡不能を扱います。終了時の名義やアカウントの扱いは責任分界とアカウント管理、前払い料金の精算は月額固定と作業時間の上限のページもご覧ください。
期間と更新の設計を比べる
| 契約 | 期間と更新 | 中途解約・その他 |
|---|---|---|
| 保守ベンダーの保守契約 | 初回6か月。満了の1か月前までに終了の通知がなければ6か月ずつ更新 | 期間中は法令上認められる場合を除き中途解約できない。支払が30日以上遅れたら受託者は無催告で解除できる |
| 定額ITサポート | 1年。満了1か月前までに申出がなければ1年ずつ更新。更新時に料金・範囲の変更を提案できる | 解約を希望する月の前月末日までの通知で当月末に終了 |
| Webサイト保守(書き直し版) | 1年。満了2か月前までに書面(メールを含む)で意思表示がなければ1年更新。更新後も任意解除・即時解除の条が適用 | 任意解除は2か月前の通知。重大な違反は原則7日の是正期間を定めた催告の後に解除。通知は指定のメールアドレスへの送信で有効、送信後24時間以内に到達とみなす |
| HP制作・保守のひな形 | 自動更新しない。更新日の1か月前と2週間前にメールで意向を確認 | 返事と支払がなければ保守は終了(サイトの公開は続く) |
| テンプレート型HP制作と継続保守 | 期間の定めなし | 1か月以上前の通知で終了 |
| 業務の自動化の委託(委託側) | 6か月。満了1か月前までに協議し、不更新の通知がなければ6か月更新 | 正当な事由がある場合を除き中途解約できない。原則30日前の通知。報酬は進捗・提供済みの役務・確保済みの体制・取消しできない費用を考慮して精算 |
| 学校法人の校内IT業務 | 1年。満了1か月前の書面の通知がなければ更新。更新ごとに条件の見直しを求められる | 終了時は受託者に引継ぎの協力義務 |
| 研究運営の支援の再委託 | 3か月。委託者が発注元と関連契約を継続して結ぶ場合に限り更新 | 上位の契約が終了し又は業務が不要になれば当然に終了(それまでの適切な業務の報酬は払う) |
Webサイト保守の原案のレビューでは、自動更新の条について、通知の方法(郵送かメールか)と効力の発生時点(発信か到達か)が分からないこと、自動更新の後の中途解約との関係が分からないこと、重大な違反があっても自動更新されてしまうことを指摘しました。書き直し版で、通知は指定のメールアドレスへの送信で有効とし、送信後24時間以内に到達したものとみなす、更新後も任意解除・即時解除の条が適用される、と明記したのはそのためです。
生成AIを使った業務支援のサービスでは、保守運用サポートの本体を原則1年・1年ずつの自動更新とし、月1時間の面談のオプションは本体なしの単独契約ができず、本体が終われば同時に終わる、と定めていました。仲介会社との準委任の基本契約の修正版では、基本契約が終わっても個別契約には影響しない、と書いています。複数の契約が連動するときは、どちらが終わればどちらが終わるのかを、両方の契約書に書いておきます。
委託者だけが解約できる条項と、フリーランス法の予告
SESや時給制の契約では、委託者だけがいつでも解約できる条項がよく見られます。情報セキュリティ関連の業務を受ける個人エンジニアに相手方が示した契約では、委託者が「理由の如何を問わず」「何らの責任を負わずにいつでも」解約できるとされていました。レビューでは、予告の期間(例えば30日や60日)と、その間の稼働分の報酬の支払、受託者の側の解除権を求めるよう提案しています。
事務所の改訂例 解約・解除の条(受託側から修正を求めた例)
委託者の判断による解除
委託者の主観で解除できる条項は、実質的に「いつでも切れる契約」になるため。重大性・是正の機会・客観性の3つを満たす形にした。
是正の期間
副業で平日の対応が難しい受託者には、1週間では是正の機会として短いため。
基本契約の解除
解除の要件を客観的にし、是正の機会を確保するため。
受託者がフリーランス法の特定受託事業者に当たり、委託者が特定業務委託事業者に当たる場合、6か月以上の継続的な業務委託(契約の更新で6か月以上続くことになるものを含みます)を解除し、又は期間の満了後に更新しないときは、少なくとも30日前までに予告しなければなりません(フリーランス法16条1項、13条1項、施行令3条)。災害その他やむを得ない事由で予告が困難な場合など、厚生労働省令で定める場合は除かれます(同項ただし書)。予告を受けた受託者が、予告の日から契約が満了する日までの間に解除の理由の開示を求めたときは、第三者の利益を害するおそれがある場合などを除き、遅滞なく開示しなければなりません(同法16条2項)。副業エンジニアの時給制の契約のレビューでは、1か月ごとの自動更新でも更新によって6か月以上続けば、「明日から来なくていい」とは言えなくなる、と説明しました。双方が1か月前の書面の通知でいつでも解約できるとする条は、民法651条1項の任意の解除権の行使に予告期間を付ける特約と見ることができます。
反対に、委託側の契約で、受託者からの解約に長い予告を求めた例もあります。遠隔運用代行の契約では、受託者からの解約は2か月前の予告と、進行中の現場や書類の引継ぎの義務を課し、委託者からの解約は原則30日前の予告としました。起案時の報告書では、委託者からの30日前の予告はフリーランス法16条の予告義務に対応するもので、受託者に長い予告を求める非対称な設計である、と説明しています。現場の業務を一人の受託者に頼っている委託者にとって、急に抜けられることが最大のリスクだからです。
自動更新しない設計
個人のHP制作者の制作・保守のひな形では、ヒヤリングで「更新日までに返事がない場合は、自動更新か、保守終了か」を選んでもらい、自動更新しない設計にしました。年単位の保守料を自動で請求し続けると、顧客が保守の必要性を意識しないまま更新され、後で「頼んでいない」と言われるおそれがあるからです。
自動更新しない保守の更新手続(HP制作・保守のひな形)
- 更新日の1か月前にメールで意向を確認する更新しない場合の影響(記事編集画面の停止・フォームの切替・サイトの表示は続くこと)を通知に書く。
- 更新日の2週間前にもう一度確認する1回目に返事がなかった顧客に、同じ内容で再度確認する。
- 意向の表示と支払で更新する更新日の後14日以内に支払があれば、更新日にさかのぼって更新する。
- 返事と支払がなければ保守は終了するサイトの公開は続く。通知が届かなかった場合でも、終了の効果は妨げられない。
- 制作者の側も更新しないことができる更新日の1か月前までの通知で、制作者も更新しないことを選べる。保守料の改定は更新日の1か月前に通知し、同意がなければ更新しない。
この設計では、保守が終わってもサイトの表示は止まらず、記事の編集画面とフォームだけが一定期間の後に止まる、という終了の効果を、通知の段階で顧客に伝えることが大切です。何が止まり、何が続くのかが分かっていれば、顧客は更新するかどうかを判断できます。期中に上位のプランへ変えるときは差額を日割りで精算し、期中の解約は返金しない、という定めも置きました。
終了時の作業:返還・削除は義務、移管・説明は有償
終了時の作業の扱い(保守ベンダーの保守契約と委託側の契約)
| 作業 | 扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 預かった資料・アカウント・データの返還、削除、廃棄 | 月額内 | 委託者の合理的な指示に従って行う(受託側の保守契約) |
| 終了までに発生した料金・立替費用の支払 | 顧客側 | 終了後も支払の義務は残る |
| 移管、引継資料の新規作成、他の事業者への説明、データの変換・移行 | 別料金 | 通常の返還を超える作業として別途有償(受託側の保守契約) |
| 委託者が管理を引き継ぐのに必要な最低限の情報提供 | 月額内 | 協力する。新たな作業は別途協議(Webサイト保守の書き直し版) |
| 成果物・設定情報・マニュアル・データの引渡しと、稼働状況・未完了事項・アクセス権限・外部サービスの利用状況の説明 | 月額内 | 継続して使える形式で引き渡し、2〜4時間程度のオンラインの引継ぎ説明は無償(委託側の業務委託契約) |
| 後継の業者への技術的な引継ぎ説明 | 別料金 | 顧客の求めに応じ、協議のうえ有償にできる(HP制作・保守のひな形) |
定額ITサポートの契約書も、台帳の情報の返却・削除・廃棄は行うが、引継ぎ・追加の整理・データ移行の支援・説明の業務は別途費用としていました。大手の顧客向けの基本契約では、設定の変更・データの移行・アンインストール・システムの切替えの移行支援を、別途の合意・別途の報酬としています。
委託側の業務の自動化の契約では、終了時の順序も書いています。成果物・設定情報・マニュアル・委託者のデータを、委託者が継続して使うために必要な形式で引き渡し、稼働状況・未完了の事項・アクセス権限・外部サービスの利用状況を説明したうえで、引継ぎの後に委託者のデータと個人情報を復元できない方法で削除して報告し、バックアップは隔離して管理し保存期間が過ぎたら削除する、という流れです。遠隔運用代行の契約でも、委託者のデータやアプリに蓄積されたデータを、委託者が継続して使うために必要な形式で速やかに引き渡し、引継ぎが終わった後に受託者の環境から委託者の指示で復元できない方法で削除する、としました。先に削除すると引き渡せなくなり、先に引き渡さないと削除の報告ができないので、「引渡し→説明→削除→報告」の順序を条文に書いておきます。
期限つきの返還・削除証明と、リポジトリの移管
返還と削除には、期限と証明を付けることがあります。オフショア開発の準委任の契約では、終了日から7日以内に資料・記録媒体・電子ファイルなどを返還又は完全に削除して書面で報告し、商用のクラウド・メール・業務端末に残ったデータも復元できない方法で処理し、必要に応じて削除証明書を出す、と定めました。受託開発会社の基本契約では、7営業日以内に、成果物・ソースコード・秘密情報・個人情報のほか、記録媒体、複製物、バックアップファイル、クラウドのアカウント、アクセス権限などを返還又は削除し、求めがあれば削除報告書を出し、費用は受託者の負担としています。大手の顧客向けの基本契約では、返還・破棄と破棄の証明を求めつつ、通常のバックアップで削除が難しいもの、法令上の保存義務があるもの、社内の意思決定の記録を例外にしていました。例外を書いておかないと、受託者は守れない約束をすることになります。
個人のHP制作者の制作・保守のひな形では、保守期間中はサイトのデータを制作者が管理するソース管理サービスの非公開のリポジトリに保管し、契約が終わるときは事由を問わず無償で引き渡す、と定めました。顧客がアカウントを用意できればリポジトリごと移管し、難しければファイル一式を渡します。引渡しの後、制作者は自分の管理下のデータを削除し、以後はサイトを変更する手段を持ちません。記事の編集画面は保守の終了後30日でログインを止めますが、サイトの表示と掲載済みの記事には影響しません。問い合わせフォームは、保守の終了後30日で閲覧者のメールソフトが起動する形式に切り替え、サイトが制作者の仕組みに依存しない状態にします。顧客には、記事や画像を随時書き出す機能と自分でのバックアップを勧めることも書きました。
テンプレート型のHP制作と継続保守の契約では、終了日から30日間、静的なデータやHTML・CSS・画像・バックアップを保管し、委託者はその期間内に限り譲渡を申し出られる、としていました。当初の譲渡の対象は静的なデータで有償、ドメインの設定情報は含まない形でしたが、改訂版ではドメインとサーバーの契約情報も対象に加えられ、契約が36か月以上続いていれば譲渡の費用を無償とする形になっていました。CMSの管理環境やプラグインのライセンスは対象外で、提供はHTMLと画像が基本、動的な環境の再現は委託者の責任とし、期間が過ぎたら完全に削除します。委託者の都合で終了したときは、受託者が管理するサーバーから成果物を削除でき、サイトが表示されなくなっても受託者は責任を負わない、とも定めています。
一人で保守を受ける事業者の連絡不能
個人の制作者やエンジニアが一人で保守を受けている場合、病気や事故で連絡が取れなくなったときに、顧客のサイトやシステムが宙に浮くおそれがあります。HP制作・保守のひな形では、ヒヤリングで緊急連絡先、連絡不能の基準、連絡不能で終了するときの返金、長期の入院などの際にデータの引渡しを実現する手段(緊急連絡先がリポジトリなどにアクセスできる備えがあるか)を確かめたうえで、次の条を置きました。
1甲は、緊急連絡先を定め、本契約の成立時に乙に通知する。緊急連絡先は、甲の債務を代わって履行する義務を負わない。
2乙からの連絡に連続して2週間以上応答がなく、改めての連絡にも7日以内に応答がないときは、乙は、催告をすることなく、将来に向かって本契約を解約することができる。事前に通知された不在の期間は算入しない。
3前項により解約したときは、甲は未経過期間の保守料を日割りで返金する。ドメイン及び公開の設定は乙の名義であるため、サイトの表示は継続する。
4甲は、甲と連絡が取れない場合にもサイトのデータの引渡しが実現するよう、外部サービスのアカウントの認証情報を安全に承継する手段の確保に努める。
このひな形は、制作者を甲、顧客を乙としています。資産を顧客の名義に置いているので、制作者と連絡が取れなくなってもサイトの表示は止まりません。
AI活用支援のコンサルティング契約のレビューでは、受託者の傷病の際の条項が受託者だけを一方的に守る内容ではないか、という質問に、通知・協議・精算を前提としているので一方的なものではない、と回答しました。一人で受ける事業者にとって、傷病時の条項は自分を守るためのものであると同時に、顧客に安心してもらうための約束でもあります。
起きがちなこと:終わった後にもめる
終わり方の条は、契約の最初に決めておかないと、終わるときには当事者の関係がすでに悪くなっていて、合意ができません。期間と更新、解約の予告、終了時の作業の線引き、削除の順序と証明、連絡不能のときの扱いを、契約の段階でそろえておきます。保守中に作った資料の権利の扱いは保守で生まれる資料の権利・秘密保持・生成AIのページで扱います。
よくあるご質問
契約終了時の引継ぎは、無償で行う必要がありますか?
契約で決めておかなければ争いになります。事務所の書類では、預かった資料・アカウント・データの返還や削除は義務とし、移管・引継資料の新規作成・他の事業者への説明・データ移行は別途有償とする書き方が中心です。委託側の契約では、2〜4時間程度のオンラインの引継ぎ説明を無償とした例もあります。
一人で保守をしていて、病気などで連絡が取れなくなったらどうなりますか?
契約に定めがなければ顧客が困ります。連続2週間以上応答がなく改めての連絡にも7日以内に応答がない場合は顧客が解約でき、未経過の保守料を日割りで返金すること、受託者は認証情報を安全に承継する手段の確保に努めることを定めた例があります。
自動更新と「返事がなければ終了」は、どちらがよいですか?
どちらにも利点があります。自動更新は継続しやすい反面、顧客が意識しないまま更新されて後でもめるおそれがあります。自動更新しない設計では、更新日の1か月前と2週間前に意向を確認し、更新しない場合に何が止まり何が続くかを通知に書いておきます。
委託者だけが即時に解約できる条項は、受け入れるべきですか?
受託者には不利です。予告の期間とその間の稼働分の報酬、受託者の側の解除権を求めるのが基本です。受託者がフリーランス法の特定受託事業者で、6か月以上続く委託であれば、委託者には解除や不更新の30日前の予告の義務もあります。
保守をやめたら、サイトやシステムはどうなりますか?
契約しだいです。資産を顧客の名義に置き、編集画面は終了後30日で止めるがサイトの表示は続く設計や、受託者のサーバーから30日後に削除し、期間内なら譲渡を申し出られる設計(36か月以上の継続で無償)などがあります。
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